■日本初の測量
皆さんは、日本で最初に本格的な測量を行った人物をご存じでしょうか?
その人物とは、江戸時代の「伊能忠敬(いのう ただたか)」です。彼は今から200年以上前の1800年から、なんと17年もの歳月をかけて全国を歩いて測量しました。そしてその4年後、日本で初めての本格的な地図「大日本沿海輿地全図(だいにほん えんかい よち ぜんず)」を完成させたのです。
この地図の精度は驚くべきもので、現代の日本地図と比較しても誤差はわずか0.2%。
最新の測量機器もない時代に、どうしてこれほど高精度の地図を作ることができたのでしょうか?
その秘密は、当時としては高度な観測技術にあります。伊能忠敬は「導線法」と呼ばれる方法を使い、方位磁石で方角を測り、歩いた歩数で距離を測定しました。さらに、南からの方位も計測して誤差を最小限に抑え、遠くの目標物の方位を記録する「交会法」も活用。また、夜間には星の高さを観測し、正確な緯度の算出にも取り組んでいたとされています。
こうした地道な努力と工夫の積み重ねが、日本初の地図の高い完成度につながっているのです。
伊能忠敬の偉業は、測量という仕事の原点を改めて考えさせてくれる存在と言えるでしょう。
■近代 ~現代の測量(デジタル化)~
時代が進み、明治時代から昭和50年代頃までは、「平板測量」と呼ばれる方法が主流となっていました。この手法は現地で観測を行い、決められた縮尺を基にその場で地図を描き上げていきます。実は、江戸時代に活躍した伊能忠敬も形式は異なりますが、平板を使用していました。
当時の距離測定は、主に巻尺を使って行われており、現代に比較すると精度に限界がありました。それでも、地道な手作業で地図を描き続けた技術者たちの努力によって、日本の測量技術の基盤が築かれたのです。
転機が訪れたのは昭和後期。社会全体のデジタル化が進む中、「トータルステーション」という高性能な測量機器が登場しました。これにより、より正確かつ効率的な測量が可能になり、測量の世界に革命が起こります。
図面作成も大きく変わりました。かつては手描きで製図していた地図も、CAD(コンピュータ支援設計)によってパソコン上で作成できるようになり、二次元の「点」データとして座標を管理するスタイルが一般化します。
筆者も若いころは、昼間に平板測量を行い、夜は烏口(からすぐち)を使って図面を一つひとつ手描きしていた時代を懐かしく思い出します。今では想像もつかないような手間のかかる作業も、デジタル技術の進化によって大きく変わりました。
こうして、測量は「アナログからデジタルへ」と確実に進化し続けているのです。
■測量の技術革新
最近登場した3Dレーザースキャナーやドローン(UAV)による測量は、対象物に直接触れることなく、1秒間に数十万点以上の点群データを迅速に取得できるため、測量業界に大きな変革をもたらしました。この技術により、広範囲を短時間で、安全に測量することが可能となり、測量の効率が飛躍的に向上しました。
これらの技術は、短時間で高精度なデータを取得できる点で非常に画期的で、従来の二次元の「点」データから、三次元の点群データへと移行することで、データの量と質が大幅に進化しました。
三次元の点群データを視覚的に「面」として捉えることで、立体的な空間認識が可能となりました。その活用範囲は土木や建築分野にとどまらず、既存製品の構造や仕組み、製造方法を分析するリバースエンジニアリングや、公共インフラの整備、工場設計やメンテナンス、さらには有形文化財のデジタルアーカイブ化など、多岐にわたる分野で活用されています。
■測量業界の未来
今後、3Dレーザースキャナーやドローン測量によって得られる点群データ「面」の活用は、世界的なAI技術の革新と相まって、業務の効率化をさらに加速させ、進化と応用範囲の拡大が期待されます。
また、技術者不足が懸念される中、従来の華やかさに欠けるイメージとは異なり、測量業界は時代の最前線を走る分野へと変わりつつあります。特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代において、若い世代に求められるスキルは、3Dデータ解析や処理といったデジタル技術や、ドローン操縦技術などです。この新たな時代の到来に伴い、より多くの若者が測量業界に興味を持ち、共に働けることを心から期待しています。
■まとめ
デジタル技術の進化により、3Dレーザースキャナーやドローンの性能が飛躍的に向上し、AI技術の発展とともに取り扱うソフトウェアも進化しました。その結果、将来的には現在よりもさらに手軽に導入できるようになり、三次元の点群データ「面」の活用範囲がさらに広がることが予想されます。
1980年に世界で初めて登場したトータルステーションが測量に革新をもたらしてから45年。従来の「点」データから始まった測量は、3Dレーザースキャナーやドローンの登場により、立体的な三次元の「面」で扱う時代へと変わりつつあります。これが当たり前になる日も、そう遠くないかもしれません。